鬱の基本的な知識

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近年、9年連続で自殺者数が3万人を上回り、先進国中でも異様と思われるほど高い自殺率が問題視されているが、その多くに鬱病患者が存在すると言われている。
一方で一般の鬱に対する関心も高まってきているが、まだまだイメージに対する誤解やきちんとした治療に対する理解は低く、鬱の兆候が現れても治療を受けなかったり、周囲が気づくこともなかったりするため、適切な治療を受けている患者は鬱病患者全体の1〜2割ともいわれている。
そのような状況の中、スピリチュアルブームなどでインチキカウンセラーなどによる誤った「カウンセリング」などが横行している。このような誤った治療は、一部の患者には実際に有効な場合もあるが、時として患者の症状を悪化させ、最悪の場合自殺に追い込んでしまう場合もあり得る。これは不適切なカウンセリングによる看過できない副作用であり、正しい知識を共有していくことが重要であると考えられる。


鬱病はこころの病気と言われることが多く、「心の風邪」という表現もある。これは誰にでも起こりうる病気であることを示している点で評価できるが、風邪のように放っておけば治ると軽く考えすぎるのは問題であると思われる。鬱病の発生メカニズムは完全に解明されたわけではないが、セロトニンノルアドレナリンの減少が関係している脳の神経伝達異常によるれっきとした病気であり、単なる落ち込みや甘えとは違うことがわかっている。

明らかなストレスのほか、ちょっとした環境の変化や職場での栄転など、一見良い変化に見えることまで、何かが引き金で起こること(反応性鬱病)もあれば、さしたる原因もないのに自発的に起こってしまう場合もある(内因性鬱病)。
鬱病にかかりやすい性格(病前性格)として「メランコリー親和型」「執着性格」「循環性格」などがあり、几帳面・真面目な人におこりがちという傾向はあるが、本質的には脳の病気であるため、「心の弱い人が鬱病になる」「何か明確な原因があるからそれを取り除けば大丈夫」と一概に言うことはできない。


鬱病の中にも分類がいくつかあり、大うつ病(Major depression)、小うつ病(Minor depression)、躁うつ病(双極性障害)、軽症うつ病(Hypomelancholia)、仮面うつ病(Masked depression)、気分変調症などがある。少々厄介なのは、Major depressionを野球の大リーグのように「大うつ病」と訳してしまったため、その他のうつ病が治療の必要がないと誤解されやすい点である。実際は小うつ病や軽症うつ病は大うつ病の程度が軽い段階であり、放っておくと大うつ病にまで悪化しうるものであると考えられているらしい。
また、鬱病に関する書籍でも「鬱病」として大うつ病のみ取り扱っているものも多いため、軽症うつの患者が自分はこれほどひどくない、やっぱり甘えなのだと思い込んでしまうことも少なくないと考えられる。


たとえばDSM-IVでは、大うつ病の診断基準として以下の項目が挙げられている。

  1. その人自身の訴えか、家族などの他者の観察によってしめされる。ほぼ1日中の抑うつの気分。
  2. ほとんど1日中またほとんど毎日のすべて、またすべての活動への興味、喜びの著しい減退。
  3. 食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加、または毎日の食欲の減退または増加。
  4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
  5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止。
  6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
  7. ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感。
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほぼ毎日認められる。
  9. 死についての反復思考、特別な計画はないが反復的な自殺念虜、自殺企図または自殺するためのはっきりとした計画。
http://yukitachi.cool.ne.jp/utsu/u33shindan.html

しかし、必ずしもこれらに当てはまらなくても大うつ病以外の鬱病である可能性もあるので、2週間以上にわたる気分の落ち込みや、いくつかの点に当てはまる項目があれば一度専門医の診察を受けてみると良い。