不幸論 読んだよ

不幸論 (PHP新書)

不幸論なんていうタイトルの本をPHP新書から出すとはどういう了見か(ぉ


我々は本質的に不幸だという著者の主張はひねくれてはいるがそんなに荒唐無稽な話でもないように思う。

p.28
(一)自分の特定の欲望がかなえられていること
(二)その欲望が一般的信念にかなっていること
(三)その欲望が世間から承認されていること
(四)その欲望の実現に関して、他人を不幸に陥れない(傷つけない、苦しめない)こと

幸福をこのように定義すると確かに視野を広げていったときにどこかで矛盾が生じる。大学入試の頃なんかは自分が受かることで落ちる人がいるという事実をいろいろ考えたりもしたもんだが。
宮沢賢治の「世界全体が幸福にならないかぎりは個人の幸福はありえない」という話にもなってくるが、そもそも前提が上述の四本柱である限りどうしても矛盾は生じ、その結果どんな人生も本質的に不幸だ、ということになる。
最近蔓延している幸福になりたい病のような幸福論の氾濫は結局大局的な不幸や死から目を逸らして無理矢理幸福だと思い込んでるんじゃないかなぁ。


ただ、カバーにも書いてあるが自分固有の「不幸」と向き合うことはよりよく生きることにつながるというのにもまた同意できる。不完全性定理があっても数学の体系が成り立ち、熱力学第二法則があっても人類の営みが成り立つように、不幸論が論理的に人生の本質的不幸に帰結するとしても、よく生きることは十分可能だ。
広い視野をもって世界と死に向き合えばいいんじゃなかろうか。